電話が5コール鳴っても出なかった夜のことを、私はまだ覚えています。かけ直したら風呂に入っていただけでした。
それでも、受話器を置いたあとに手が冷たくなっていました。一人暮らしの親が心配というのは、たぶんこの感覚のことです。
先に結論を書きます。見守りの機器を選ぶより先に、実家の地域包括支援センターの番号を控えてください。無料で、親の同意もいりません。
私は母を3年、片道4時間の距離から介護して看取りました。その介護が始まったきっかけは、私の見守りではありませんでした。
この記事では、見守りの選択肢を月額の安い順に並べ、費用の比べ方、親に断られたときの順番、そして見守りでは拾えないものまで書きます。
値段だけ知りたい人は3つ目の見出しの表で足ります。どれから手をつけるか迷っている人は、最後まで読んでもらえると順番が決まります。
心配なら機器より先に連絡先を1つ作る

一人暮らしの親が心配で検索している人の多くは、カメラやセンサーの比較記事にたどり着きます。私もそうでした。
でも、最初にやるべきなのは買い物ではありません。実家の市区町村にある地域包括支援センターを1つ特定することです。
地域包括支援センターは市町村が設置している高齢者の総合相談窓口で、厚生労働省の公表では令和7年4月末時点で全国に5,487か所あります。支所まで入れると7,374か所です。
ここが効くのは、相談が無料で、家族からの相談でも受けてもらえるからです。親がまだ介護保険を使っていなくても構いません。
ただ、限界も先に書いておきます。本人の同意がないまま、センターが家に上がって様子を見てくれるわけではありません。
できるのは、地域の資源を教えてもらうことと、気になる家として名前を覚えてもらうことです。次に何かあったときの相談先を、先に作っておく作業だと思ってください。
その地域でどんな見守りが動いているか、緊急通報の貸し出しがあるか、配食に安否確認が付いているか。市区町村ごとに違うものを、まとめて答えてくれるのが窓口の価値です。
探し方は簡単です。「実家の市区町村名」と「地域包括支援センター」で検索すると、担当エリアの一覧が自治体のページに出てきます。
親の住所がどのセンターの担当かは区域で決まっているので、そこだけ間違えないようにしてください。
電話をかけるとき、うまく説明しようとしなくていいです。次の3つが言えれば、あとは向こうが聞いてくれます。
- 親の氏名と住所
- 自分との続柄と住まい
- 気になっている出来事
3つ目は「先月、家の前で転んだ」のように、日付と出来事で言うのが早いです。心配です、だけだと話が進みません。
あと、窓口が開いているのは平日の日中が基本です。夜にこれを読んでいる人は、番号を控えるところまでを今日の作業にしてください。
もし親が転んだ、入院した、と連絡が来る日が来たら、その番号がそのまま要介護認定の申請から介護保険を使い始めるまでの入口になります。
厚生労働省の解説では、申請から認定の通知までは原則30日以内とされています。倒れてから調べ始めると、この30日がまるごと待ち時間になります。
だから今日の1手は、契約ではなく番号です。何も起きていない日にしかできない準備は、これくらいしかありません。
電話していたのに気づけなかった話

私の実家は片道4時間の地方にあります。父は先に亡くなり、母はその家で1人で暮らしていました。
当時の私の見守りは、週に何度かの電話だけです。それで足りていると思っていました。
母は電話に出ると必ず元気な声を出しました。心配をかけたくない親は、声だけは作れます。
介護が始まったのは、母が自宅の前で転んだときです。知らせてきたのは私ではなく、近所の方からの電話でした。
週に何度も話していた息子が、いちばん最後に知りました。あのときの情けなさは今も残っています。
振り返ると、兆しはありました。同じ話を2回する、鍋を火にかけたまま忘れる、冷蔵庫に同じ惣菜が並ぶ。
私が見落としていたのは、こういう変化が電話ではまず分からない種類のものだということでした。声の調子は、台所の焦げ跡を伝えてくれません。
だから私は、見守りを「安心を買うもの」だとは思っていません。自分の目と耳が届かない部分を、別の誰かの目と耳で埋める作業です。
帰省の回数を増やすのも同じ考え方で、私は遠距離介護の帰省頻度を月何回にするかを物差しで決めるようになりました。ただ、それは転んだあとの話です。
見守りの選択肢を月額の安い順に並べる

ここから具体的な選択肢に入ります。今日、各社と公的機関が公表している内容を並べ直して確かめました。
安い順に6つです。値段の差は機能の差というより、人が動くかどうかで決まっています。
地域包括支援センター
費用は0円です。見守りの機器ではなく、地域の見守りに繋いでくれる窓口だと考えてください。
保健師や社会福祉士、主任ケアマネジャーが置かれていて、介護保険の申請の相談もここでできます。
私が勧める理由は、民生委員や自治会の見守り、社会福祉協議会の活動など、検索では出てこない地元の資源を知っているからです。
弱点も書いておきます。人が動くまでに時間がかかり、緊急の駆けつけはできません。今夜の不安を消す道具ではないです。
自治体の緊急通報と配食
多くの市区町村が、緊急通報装置の貸し出しや、安否確認つきの配食サービスを持っています。
ただ、名称も対象の条件も料金も自治体ごとにまったく違います。ここに全国共通の金額は書けません。
ひとり暮らしであること、一定の年齢以上であること、持病があること。こうした条件が付くのが普通です。
だから調べ方はひとつで、実家の市区町村の高齢福祉の担当課か、さきほどの地域包括支援センターに直接聞くのが早いです。
民間より安いか無料の場合が多いので、民間を検討する前にここを1回通してください。
郵便局のみまもり
日本郵便が全国で出している見守りです。公表されている料金は税込で、内容がはっきりしています。
みまもり訪問サービスは月2,500円。郵便局員が月1回、30分ほど訪問して10項目を確認し、写真つきの報告書が指定した家族へ届きます。
みまもりでんわサービスは月1,070円から。毎日、自動音声で体調を聞き、その回答がメールで届きます。
未応答なら1時間以内に再度かけ、2回続けて出ないと不在の結果がメールで来ます。報告先は最大4人まで登録できます。
訪問と電話を両方使うと月3,460円からです。月に1回の訪問だけでは、その1日以外は分からないので、組み合わせが前提の設計だと読めます。
駆けつけはオプションで、セコムか綜合警備保障と別に契約する形です。駆けつけ1回につき5,500円かかり、対応は1時間以内と公表されています。
電気ポットで見守る
象印のみまもりほっとラインは、通信機能の付いた電気ポットを親が普段どおり使うだけ、という仕組みです。
料金は月3,300円で初月は無料、初回のみ初期費用が5,500円です。いずれも税込で公表されています。
ポットを使った時刻がメールで届きます。1日0回から3回まで設定でき、送り先は最多3人です。
2001年から続いているサービスで、工事もWi-Fiもいりません。親の側は電源を差すだけです。
この型のいいところは、親が操作を覚えなくていいことと、見られている感じが薄いことです。母のような人には、これが効いたかもしれないと今は思います。
弱点は、お湯を使わない生活だと成立しないことです。夏に麦茶しか飲まない親だと、使用なしの通知が意味を持ちません。
警備会社の駆けつけ
倒れたときに人が来てほしい、という要望に正面から応えるのが警備会社です。
ALSOKのみまもりサポートは、公表されている税込の料金が3つに分かれています。
機器を買う形は月1,870円で初期費用が70,565円。レンタルは月2,838円で初期費用13,365円。初期費用0円のゼロスタートは月3,069円です。
緊急ボタンで警備員が駆けつけ、相談ボタンでは看護師資格を持つスタッフに24時間相談できます。
ここで見落としやすいのが追加分です。依頼による駆けつけは出動料金が1回7,700円、家族へのメール通知は月550円のオプションと公表されています。
月額の数字だけを見て安いほうを選ぶと、ここでずれます。比べるときは後述の年額で並べてください。
カメラとセンサー
室内カメラや人感センサーは、機器を買えば月額がかからない製品もあります。費用だけ見ればいちばん軽いです。
そのかわり、いちばん揉めます。黙って付けたカメラを親に外されたら、その日から見守りはゼロに戻ります。
もし入れるなら、映像の向きが大事です。居間の入口や廊下に向けるのはよくて、寝室と風呂と便所には向けない。
人感センサーなら姿は映りません。「動きがない時間が続いたら通知」だけで足りる家も多いです。
あと、通知が来ても駆けつける人がいません。片道4時間の私のような立場だと、映像を見ながら何もできない時間が生まれます。近所の誰に頼むかを先に決めてください。
費用は月額でなく1年分で比べる

ここまでの金額を、月額のまま並べても選べません。初期費用と駆けつけの料金が別にあるからです。
私が勧める比べ方は、初期費用+月額×12+駆けつけ1回で、1年目の総額にそろえることです。
| 選択肢 | 月額(税込) | 初期・追加(税込) |
|---|---|---|
| 地域包括支援センター | 0円 | なし |
| 自治体の緊急通報 | 自治体ごと | 自治体ごと |
| 郵便局 みまもりでんわ | 1,070円〜 | 駆けつけは別契約 |
| 郵便局 みまもり訪問 | 2,500円 | 駆けつけ1回5,500円 |
| 郵便局 訪問+でんわ | 3,460円〜 | 駆けつけ1回5,500円 |
| 象印 みまもりほっとライン | 3,300円 | 初期5,500円・初月無料 |
| ALSOK 買い上げ | 1,870円 | 初期70,565円 |
| ALSOK レンタル | 2,838円 | 初期13,365円 |
| ALSOK ゼロスタート | 3,069円 | 初期0円 |
この表で1年目を計算すると、ALSOKの買い上げは月額がいちばん安いのに初期費用で逆転します。
逆に、長く続ける前提なら買い上げが効いてきます。何年続けるつもりかを決めないと、どのプランが得かは決まりません。
私が親の見守りで失敗しやすいと思うのは、ここを曖昧にしたまま契約して、介護が始まったあとも惰性で払い続ける形です。
もう1つ、先に決めておくものがあります。誰の財布から出すか、です。
親の年金から引くのか、自分が出すのか、兄弟で割るのか。ここを決めずに立て替えで始めると、あとの相続で必ず火種になります。
私は介護の3年ぶんを立て替えたまま、記録も残しませんでした。相続の話し合いで根拠を出せず、弟と1年、口をきかなくなりました。
月2,500円でも3年で9万円です。金額の大小ではなく、誰がいくら出したかが残っているかどうかが後で効きます。
目安として、要介護認定を受けてデイサービスやヘルパーが入ると、人の目は自動的に増えます。介護保険の申請と要介護認定の流れまで進んだら、見守りの契約は一度見直してください。
親に「いらない」と言われたときの順番

ここが、売る側の記事にはほとんど書かれていない部分です。だいたい「ご本人の同意が大切です」で終わります。
母は施設の話でも「家がいい」で止まりました。説得で動かなかった経験から、3つだけ書きます。
見守りと言わない
見守りという言葉は、言われた側には「監視」と「老い扱い」に聞こえます。ここで拒否されると次がありません。
私が母に断られたのは、だいたい主語が母のときでした。「お母さんが心配だから」は、悪気なく相手を弱者にします。
主語を自分にすると通りやすくなります。「私が安心したいから、電話が来る仕組みを入れさせて」という言い方です。
期間を区切って試す
親が嫌がるのは、一度入れたら死ぬまで続く、と受け取るからです。終わりが見えないものに人は同意しません。
だから期限を先に言います。3か月やってみて、嫌ならやめようで切り出すほうが、無期限の説得より通ります。
初月無料や短い最低利用期間のサービスから始めると、この言い方に嘘がなくなります。実際にやめる覚悟で言ってください。
親の心配から入る
親には親の困りごとがあります。話し相手がいない、字が小さくて役所の書類が読めない、電球が替えられない。
郵便局の訪問のように、人が来て30分話す形は、この困りごとのほうから入れます。安否確認は結果として付いてきます。
それでも動かないときは、無理に押さないほうがいいです。私は施設の話で押して関係が固くなりました。
そのときの手順は親が施設を嫌がるときに説得より先にやることに残しています。断られた翌日から何をするかを書いた記事です。
見守りで拾えないものが3つある

ここは、見守りを売っている側が書きにくい話です。私は間に合わなかった側なので書きます。
お金の判断
安否は分かっても、通帳と印鑑と契約は見えません。ここが一番あとから効いてきます。
私は母の物忘れが始まった頃に家族信託を調べ、無料相談まで行きました。そこで言われたのが判断能力の線引きです。
契約は本人の意思で結ぶものなので、判断能力が落ちたあとでは組めません。私は間に合わず、見送りました。
そのときの経緯は家族信託の相談に行って間に合わなかった私の記録に書きました。制度の違いだけ先に知りたい人は、成年後見と家族信託の違いのほうが早いです。
見守りを入れるなら、同じ月に通帳の置き場所と保険証券の有無だけでも聞いておいてください。順番を逆にすると私と同じになります。
火と鍋の消し忘れ
母には火の消し忘れがありました。安否確認の電話でも、月1回の訪問でも、これは出てきません。
ここで効くのは見守りではなく設備の入れ替えです。立ち消え安全装置や自動消火の付いたコンロ、電磁調理器への交換が現実的です。
火災センサーを足せる見守りもあります。ALSOKだと熱の火災センサーが追加できると公表されています。
帰省したときに、鍋の底と換気扇の油を見てください。焦げの厚みで、何回やったかがだいたい分かります。
物忘れの進み方
同じ話を2回する、というのは電話でも分かります。分からないのは、それが月にどれくらい増えているかです。
私が後悔しているのは、記録を取らなかったことです。気になった日をメモしておけば、医師にも弟にも見せられました。
紙でもスマホでもいいので、日付と出来事を1行だけ残してください。見守りの機器より、この1行のほうが強い場面があります。
兄弟がいる人は、その1行を共有してください。私は口だけで伝えて「そんな話は聞いていない」と言われ、相続で1年絶縁しました。
そのときの経過は親の介護を兄弟が手伝わないまま3年通った話にまとめています。記録は、あとで自分を守る材料にもなります。
一人暮らしの親の見守りでよくある質問

- 一人暮らしの親の見守りは、何から始めればいいですか?
-
実家の市区町村の地域包括支援センターを調べて、番号を控えることからです。相談は無料で、その地域の緊急通報や配食に安否確認が付いているかまで一度に聞けます。
機器選びはそのあとで間に合います。自治体の制度のほうが安いことが多いからです。
- 見守りサービスの費用はいくらくらいですか?
-
公表されている料金で見ると、郵便局のみまもりでんわが月1,070円から、みまもり訪問が月2,500円、象印のみまもりほっとラインが月3,300円です。
ALSOKのみまもりサポートは月1,870円から3,069円で、選ぶプランによって初期費用が0円から70,565円まで動きます。
月額だけで比べると判断を誤ります。初期費用と駆けつけの料金を足して、1年目の総額でそろえてください。
- 親が見守りを嫌がります。どうすればいいですか?
-
主語を自分にして、期間を区切って切り出してください。「お母さんが心配だから」ではなく「私が安心したいから3か月だけ試させて」のほうが通ります。
それでも断られたら押さないほうがいいです。私は施設の話で押して、関係を固くしました。
- カメラを付けるのはやりすぎですか?
-
やりすぎかどうかより、置き場所と本人が知っているかで決まります。寝室や風呂の前に向けたカメラは、あとで必ず揉めます。
姿を映さない人感センサーで足りる家も多いです。動きのない時間が続いたら通知、という形なら親の抵抗も小さくなります。
- 駆けつけサービスは必要ですか?
-
実家の近くに、鍵を預けられる人がいるかどうかで決まります。いないなら駆けつけの契約が現実的です。
費用は別にかかります。郵便局のオプションは駆けつけ1回5,500円、ALSOKは依頼による出動が1回7,700円と公表されています。
- 毎日電話していれば見守りはいりませんか?
-
電話は必要ですが、それだけでは足りませんでした。私は週に何度も話していて、母が家の前で転んだことを近所の方からの電話で知りました。
心配をかけまいとする親は、声だけなら元気に作れます。声以外の情報が1つ入る形にしてください。
- 見守りはいつまで続けるものですか?
-
要介護認定を受けてデイサービスやヘルパーが入ると、人の目が自動的に増えます。そこが見直しの時期です。
介護が始まったのに見守りの契約だけ惰性で残っている家は珍しくありません。年に1回は棚卸ししてください。
- 兄弟とはどう分担すればいいですか?
-
通知の宛先を自分だけにしないでください。郵便局の報告先は最大4人、象印のメールは最多3人まで設定できます。
同じ通知が届いていれば、あとで「聞いていない」とは言われません。私はここを口頭だけで済ませて、相続のときに弟と1年絶縁しました。
- 遠距離だと見守りだけで足りますか?
-
足りない日が必ず来ます。私は片道4時間の距離から3年通いましたが、通知を見て動けない時間がいちばんこたえました。
見守りと並行して、近所の誰に連絡してもらうか、帰省の頻度をどうするかまで決めておいてください。
まとめ:今日は番号を1つ控えるだけでいい

一人暮らしの親が心配で調べ始めると、だいたい機器の比較で夜が終わります。私もそこで何度も止まりました。
あらためて、この記事の要点を並べます。
- 最初の1手は無料の窓口
- 自治体の制度を先に確認
- 月額でなく1年目の総額
- 駆けつけは1回ごとに別料金
- 主語を自分にして切り出す
- 金と火と物忘れは別対策
今日やることは1つだけにしてください。実家の市区町村名と地域包括支援センターで検索して、番号を控える。それだけです。
契約はいりません。親に言う必要もありません。その番号は、何かあった日の最初の1本になります。
もう少し先まで整理したい人は、遠距離介護を何から始めるかを順番にしてあります。距離がある家は、見守りの次にここが来ます。
私は、母が転んだことを近所の方から聞いた側の人間です。あの電話が鳴るまで、自分は見守っているつもりでいました。
同じ思いをしてほしくないので、今日は番号を1つだけ控えてください。それで十分です。


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