先に答えます。親が認知症でも、判断能力がどれくらい残っているかで打てる手は変わります。診断名がついた時点で全部終わり、ではありません。
ただ遺言も生前贈与も、進むほど急速に選べなくなります。ここは正直に書いておきます。
私は母の物忘れが出てから見送るまでの3年間、相続の準備を何ひとつしませんでした。あとで弟と1年ほど口をきかなくなりました。
この記事は間に合わなかった側から書きます。もう進んでしまった家族が、これから打てる手まで入れて整理しました。
けんじ「うちはもう遅い」と思って閉じないでほしいんです。残っている手のほうを先に見ていきましょう。
母の物忘れが始まってから私が打てなかった手


まず私の話から書かせてください。ここを読むと、あとの章がなぜこの順番なのか分かってもらえると思います。
鍋を焦がした電話が最初


母の異変に気づいたのは、近所の方からの電話でした。台所の鍋を火にかけたまま、居間で30分ほどテレビを見ていたそうです。
同じ話を三度繰り返すのも、そのころから増えました。私は片道4時間の距離にいて、月に二度帰るのが精一杯でした。
そこから見送るまでが3年です。頭の中は介護と仕事の調整で埋まっていて、相続という言葉が入る隙間がありませんでした。
話を切り出せなかった


遺言の話は、帰りの車の中で何度も頭に浮かびました。でも実家の玄関を開けた瞬間に、毎回引っ込めていました。
「縁起でもない」と言われるのが怖かったんです。今思うと、止めていたのは母ではなく私のほうでした。
結局、一度も切り出せませんでした。紙が1枚あるかないかで、あとがどれだけ変わるかを知らなかった。
弟と一年口をきかず


母が亡くなったあと、実家の土地の評価で弟ともめました。金額の話をしているつもりが、途中から介護をどっちがやったかの話にすり替わっていました。
着信を見て、出るのをやめた日があります。そこから1年ほど、弟とは口をきいていませんでした。
今は和解しています。ただ、母の希望が1枚残っていたら、あの1年は要らなかったんじゃないかとは思います。似た流れはきょうだいの相続トラブルにもまとめました。



親孝行ができたとは、今でも思っていません。だからこの記事は後悔した側の目線で書いています。
親が認知症になると相続で何ができなくなるのか


ここが本題です。認知症で止まるのは預金の出し入れだけではなく、相続の準備そのものが止まります。
| やりたいこと | 進んだ後 | 補足 |
|---|---|---|
| 遺言を書く | できない | 軽度なら条件つき |
| 生前贈与 | できない | 本人の意思が必要 |
| 実家を売る | できない | 後見人経由なら可 |
| 遺産分割協議 | できない | 相続人側の問題 |
遺言が書けなくなる


遺言は、本人が内容を理解して自分の意思で残すものです。判断能力が落ちると、書いても無効を疑われる余地が出てきます。
ここが一番先に消える手だと思っています。実家を誰が継ぐか、預金をどう分けるかを親の言葉で残せなくなるからです。
逆に言えば、まだ書ける段階なら最優先はここです。種類と書き方は遺言書の書き方で整理しています。
生前贈与ができない


贈与は「あげます」「もらいます」で成り立つ契約です。あげる側が理解できていないと、贈与そのものが成立しません。
家族が親の通帳から子の口座へ移しても、それは贈与になりません。あとから税務署に否認される火種になります。
だから毎年少しずつという定番の手も、認知症が進むと使えなくなります。元気なうちの選択肢は相続税の生前対策にまとめました。
実家を売れなくなる


親名義の家は、本人の意思確認ができないと売買契約が結べません。施設費のために売りたくても手が出せない状態になります。
怖いのは相続税のほうです。財産の大半が不動産だと、現金が足りないのに売れないという詰み方をします。
そもそも自分の家がかかるのかは相続税はいくらからで確認できます。凍結そのものの仕組みは認知症の親の財産管理で詳しく書きました。
分割協議が止まる


これは親ではなく相続人側の話です。親が亡くなったあと、相続人の中に認知症の人がいると遺産分割協議が進みません。
協議は全員の合意が要るので、一人でも意思表示できないと成立しないためです。預金の解約も名義変更も止まります。
口座が動かない期間の実務は預貯金の相続手続きが近いです。詳しくは後半の章で書きます。
まだ間に合うともう遅いの分かれ目


読者の方が一番知りたいのはここだと思います。線を引くのは診断書の病名ではありません。
| 親の状態の目安 | 遺言 | 贈与や契約 |
|---|---|---|
| 物忘れが出てきた | できる | できる |
| 診断はあるが会話は成立 | 条件つき | 条件つき |
| 日常の判断が難しい | 難しい | 難しい |
| 意思疎通が難しい | できない | できない |
診断名では決まらない


認知症と診断された、イコール何もできない、ではありません。見られるのは病名ではなく、そのときの理解の程度です。
診断がついた直後の軽い段階なら、遺言が有効に残せる場合もあります。ここを知らずに諦める家族が多いのがもったいない。
逆に、診断がなくても意思疎通が難しければ手は打てません。紙の上の病名で判断しないでください。
判断能力は場面で見る


判断能力は、やろうとしている行為ごとに見られます。難しい信託契約と、財産を一人に渡すだけの単純な遺言では、求められる水準が違います。
内容が単純なほど残せる可能性は上がります。複雑な条件をつけようとすると、そこで無理が出ます。
親の状態には波もあります。調子のいい時間帯を家族が一番よく知っているはずです。
公証人や医師が確認


最終的に大丈夫かを判断するのは家族ではありません。公正証書遺言なら公証人が本人と直接やりとりして確認します。
あわせて主治医の診断書を用意することもあります。あとから無効を争われにくくするための備えです。
だから自己判断で「もう無理」と決めず、専門家に状態を見てもらうのが早いです。それで駄目なら次の章に進めばいい。



可否の線引きは素人には引けません。私も母のとき、誰にも聞かないまま諦めていました。
まだ間に合う段階で打てる手


会話が成り立っているなら、まだ手はあります。優先順位をつけて、上から順にどうぞ。
遺言を一枚だけ残す


最初にやるべきは遺言です。分け方が決まっていれば、そのあとの手続きが丸ごと変わります。
完璧な内容でなくて構いません。実家を誰が継ぐか、その1行だけでも、もめる確率はぐっと下がります。
形式は公正証書遺言が安心です。書き方と費用感は遺言書の書き方にまとめています。
贈与は元気なうちだけ


相続税がかかりそうな家なら、贈与も選択肢に入ります。ただし親本人が理解して渡す形でないと成り立ちません。
節税だけを目的に急ぐと、あとで否認される話も聞きます。金額よりも、記録と本人の意思のほうが大事です。
とか言いつつ、私は母に一円も贈与できていません。だから偉そうなことは言えないんです。
財産凍結の備えは三つ


預金や不動産が動かせなくなる問題への備えは、任意後見・家族信託・法定後見の三つです。前の二つは元気なうちにしか結べません。
ここは長くなるので、この記事では深追いしません。三つの違いと費用は認知症の親の財産管理で表にして比べています。
家族信託を組む場合の窓口や実費はおやとこの評判レビューが参考になります。相続対策と財産管理は別物なので、混ぜないほうが整理しやすいです。
進んでしまった後でもできること


ここからが、うちのような家のための章です。遺言も贈与も無理でも、やれることは残っています。
財産の一覧を先に作る


これが一番効きます。どこの銀行にいくらあるか、不動産は何筆か。それが分からないまま相続に入ると、探すだけで数か月消えます。
親の同意が取れなくても、通帳や郵便物から拾える情報はあります。証券会社や保険会社からの封筒は捨てないでください。
- 通帳とキャッシュカードの所在
- 固定資産税の納税通知書
- 保険証券と年金の書類
- 借入やローンの残高
私は母の通帳を探すのに、実家の引き出しを全部開けました。仏壇の下から古い定期預金証書が出てきたときは、手が止まりました。
介護費の記録を残す


親のお金を家族が立て替える場面は必ず来ます。そのとき領収書とメモを残しておくかどうかで、あとの空気が変わります。
「誰がいくら出したか」があいまいだと、分割の話が感情戦になります。うちが1年こじれた原因の半分はこれでした。
ノートに日付と金額を書くだけで十分です。レシートを封筒に放り込むだけでも、何もないよりずっといい。
きょうだいで先に話す


親の遺言が取れないなら、次に効くのはきょうだい間の合意です。亡くなってからでは、話し合いに感情が乗りすぎます。
お金の分け方から入らないほうがいいです。誰が病院に付き添うか、実家をどうするか、そのあたりから話すと切り出しやすい。
私は弟にこの話を一度もしませんでした。もめ方の典型はきょうだいの相続トラブルに書いています。
親の希望を聞いておく


法的な効力がなくても、親の言葉は残す価値があります。実家をどうしたいか、お墓はどうするか。
調子のいい日に、雑談の流れで聞くのがいいと思います。かしこまると身構えられます。
メモでも録音でも、家族が納得する材料になります。母が実家の庭のことをぽつりと言った日のことを、私はまだ覚えています。



この章のことは、遺言が取れなくても全部やれます。うちがやれていたら結果は違ったはずです。
相続人の中に認知症の人がいる場合


親が亡くなったあとの話です。相続人側に認知症の方がいると、手続きの止まり方が変わります。
協議に参加できない


遺産分割協議は相続人全員の合意で成立します。判断能力がない方が一人でもいると、その合意が作れません。
家族が代わりにサインするのは駄目です。無効になりますし、あとで争いの種にもなります。
協議書そのものの作り方は遺産分割協議書の作り方で解説しています。
成年後見人が必要になる


協議を進めるには、家庭裁判所に成年後見人を選んでもらう流れになります。後見人が本人の代わりに協議へ参加します。
正直に書くと、これは負担が重いです。選任まで数か月かかり、専門職が就くと報酬が続きます。
しかも後見は途中で簡単にはやめられません。制度の中身は認知症の親の財産管理で費用まで書いています。
放置すると凍ったまま


面倒だからと手続きを止めると、預金は凍結されたまま、不動産の名義も動きません。相続登記には期限もあります。
協議をせずに法定相続分どおりに分ける方法もあります。割合の考え方は法定相続分と相続順位が参考になります。
亡くなった直後の全体の流れは身内が亡くなったらすることに一覧でまとめました。
遺言を書いてもらえなかった私が今言えること


最後に、後悔した側からの話をもう少しだけ書かせてください。
縁起でもないは逃げ


切り出せなかった理由を、私はずっと母のせいにしていました。怒られると思ったから、と。
でも母は一度も怒っていません。話を持ち出さなかったのは私です。
介護の話から入れば、意外と続きます。「もし入院したら通帳どこ」くらいの入口で十分でした。
完璧を目指さなくていい


全部の対策をそろえようとすると、たいてい何も進みません。私がまさにそうでした。
遺言が無理なら財産の一覧、それも無理なら通帳の場所のメモ。段階を落としてでも一つ残すほうが強いです。
手続きの多くは自分でもできます。どこまで自力でやれるかは相続手続きはどこまで自分でできるかで線引きしました。
相談先だけ先に決める


今できることが一つだけなら、相談先を決めておくことだと思います。慌ててから探すと選ぶ目が鈍ります。
私は母を見送ったあと、残った事務手続きを代行に任せました。費用は実費込みで総額およそ26.7万円でした。
安くはないし、進捗の連絡が少なくて催促もしました。良かった点も引っかかった点もnocosを使った体験談に正直に書いています。
無料相談だけ受けて断った会社もあります。窓口の比べ方は相続の相談はどこがいいかにまとめました。



やらなかった自分を後で責めるのが、いちばんきついです。一つだけでも動かしてみてください。
親が認知症の相続についてよくある質問


- Q親が認知症でも遺言は書けますか?
- A
内容を理解できる状態なら残せる場合があります。軽い段階で、内容が単純なほど可能性は上がります。可否は公証人や医師の確認を受けてください。
- Q診断が出たらもう手遅れですか?
- A
診断名だけでは決まりません。見られるのはそのときの理解の程度なので、会話が成り立つ段階なら残っている手があります。
- Q認知症の親から生前贈与できますか?
- A
贈与は本人が理解して渡す契約なので、判断能力が落ちると成立しません。家族が通帳から移しても贈与にはならず、あとで否認される恐れがあります。
- Q実家を売って施設費にできますか?
- A
親名義のままでは本人の意思確認ができず、売買契約が結べません。成年後見人を立てて手続きする形になりますが、居住用不動産は家庭裁判所の許可も要ります。
- Q相続人に認知症の人がいるとどうなりますか?
- A
全員の合意が要る遺産分割協議が成立しなくなります。家庭裁判所に成年後見人を選んでもらい、その方が本人の代わりに参加する流れです。
- Q後見を使わずに分ける方法はありますか?
- A
協議をせず法定相続分どおりに分ける形なら進められる手続きもあります。ただ不動産が共有になるなど後々の扱いが面倒なので、専門家に確認してください。
- Q進んでしまった後にできることは?
- A
財産の一覧作り、介護費の記録、きょうだい間での事前の話し合いは今からでもできます。どれも遺言や贈与が使えなくても効きます。
- Qきょうだいにどう切り出せばいいですか?
- A
お金の分け方から入らないほうが揉めにくいです。通院の付き添いや実家をどうするかなど、目の前の困りごとから話すと入りやすくなります。
- Q専門家に頼まず自分でもできますか?
- A
戸籍集めや預金の解約は自力でも進められます。私も戸籍は出生から死亡まで自分で集めましたが、役所を何往復もして時間はかなり取られました。
- Qどこに相談すればいいですか?
- A
遺言や後見は司法書士や弁護士、税金がからむなら税理士が窓口です。迷うなら無料相談を二つ三つ受けて、説明の分かりやすさで比べてみてください。
親を見送ったあと、きょうだいから何も言ってこなくなったら、何も言ってこないときに確かめる順番を見てください。
まとめ:親が認知症でも打てる手は残る


親が認知症になると、遺言・生前贈与・実家の売却・遺産分割協議の4つが順に止まります。ただ全部が同時に終わるわけではありません。
分かれ目は診断名ではなく、そのときの理解の程度です。会話が成り立つなら、遺言を1枚だけでも先に残してください。
もう進んでしまっていても、財産の一覧・介護費の記録・きょうだいとの事前の話し合いは今日からできます。何もしないことだけが、あとで一番こたえます。



私は何もできませんでした。だからこそ、まだ動ける方には一つだけでも動いてほしいです。
財産凍結の備えは認知症の親の財産管理、相談先の選び方は相続の相談はどこがいいか、代行に任せた実費はnocosを使った体験談にまとめています。











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