遺産相続の連絡を無視されても、遺産分割は進められます。話し合いには全員の合意が要りますが、家庭裁判所の調停、それでも無理なら審判に進めば、相手が一度も出てこなくても結論は出ます。
ただ、いきなり裁判所に行く必要はありません。手紙、第三者、調停、審判と、関係を壊しにくい順に段階があります。
私は母の相続の話し合いで弟が席を立ち、その夜の電話が途中で切れて、そこから1年口をきいていません。
調停は使わず、親戚が間に入ってやっと動きました。その1年に何を間違えたかも含めて書きます。
けんじ無視されると、自分だけが悪者みたいな気分になるんですよね。できることから順に見ていきましょう。
遺産相続の連絡を無視されても分割は進められる


協議は全員の合意が要る


遺言がない場合、遺産の分け方は相続人全員の話し合い(遺産分割協議)で決めます。1人でも欠けた協議書は、銀行でも法務局でも通りません。
だから無視されると「詰んだ」と感じます。
ただ、これは話し合いで決める場合のルールです。話し合いが無理なときの道は、別に用意されています。書面の作り方は遺産分割協議書の作り方にまとめています。
調停・審判なら結論が出る


話し合いがまとまらない、または話し合い自体ができないときは、家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てられます。調停がまとまらなければ、自動的に審判の手続きに移ります。
審判は、裁判官が一切の事情を見て分け方を決める手続きです。相手が一度も出てこなくても結論は出ます。無視は時間を延ばせても、結論までは止められません。
取り分の基準になる法定相続分は法定相続分と相続順位で確かめられます。
当面のお金は仮払いで


分割が終わらなくても、亡くなった人の預貯金の一部は、ほかの相続人の同意なしに引き出せます。「遺産分割前の相続預金の払戻し制度」です。
引き出せるのは、口座残高×3分の1×自分の法定相続分まで。
ただし1つの金融機関につき150万円が上限です。たとえば残高600万円・相続人2人なら、1人100万円まで。
葬儀費用の立て替えで苦しい人は、まずここを使う手があります。口座が止まる流れは預貯金の相続手続きと口座凍結に書きました。
無視されたときに進める順番


下に行くほど強い手段で、そのぶん関係は戻しにくくなります。上から順に試すのが基本です。
| 手段 | 費用の目安 | 関係への影響 |
|---|---|---|
| 普通の手紙 | 切手代 | 小さい |
| 内容証明 | 約1,420円〜 | 中 |
| 第三者を挟む | 0円〜十数万円 | 中 |
| 遺産分割調停 | 印紙1,200円+切手 | 大きい |
| 審判 | 調停から自動で移行 | かなり大きい |
※2026年9月時点。内容証明は定形25gまで・1枚・配達証明つきの場合。弁護士に代理を頼むと着手金が別にかかり、額は事務所と遺産の額で大きく違います。
まず手紙で記録を残す


LINEや電話が返ってこないなら、紙の手紙が効きます。文字にすると相手も落ち着いて読めて、送った日付も残ります。
書くのは3つだけ。手続きの今の状況、期限が近いこと、こちらが何を手伝えるか。要求や過去の不満は並べないほうが、返事は返ってきやすいです。
内容証明は「いつ、誰が、どんな内容を送ったか」を郵便局が証明する手紙です。
法的な強制力はなく、届いた瞬間に相手は争いの合図と受け取りがちです。最初の一通には使わないほうがいいと私は思います。
第三者を間に挟む


身内の言葉には、過去の感情が乗ります。同じ中身でも、兄が言うのと外の人が言うのとでは届き方が違いました。
挟む相手は、どちらの側にも同じ距離で接してきた親戚か、司法書士や相続手続きの窓口のような外の人です。頼んでいい場面とこじれる場面は相続で親戚に間に入ってもらう前の線引きに分けて書きました。
遺産分割調停


家庭裁判所で、裁判官と調停委員が間に入って進める話し合いです。当事者は交互に呼ばれて話すことが多く、相手と向かい合わずに済みます。
- 申立先:相手の住所地
- 印紙:1人につき1,200円
- ほかに連絡用の郵便切手
- 戸籍一式と財産の資料
申立先は、相手方のうち1人の住所地の家庭裁判所か、当事者が合意で決めた家庭裁判所です。
印紙は亡くなった方1人につき1,200円。弁護士をつけずに自分で申し立てる人もいます。
期間は1〜2カ月に1回ほどの期日を重ねていくので、1年前後かかることが多いです。司法統計をもとにした法律事務所の解説では、平均審理期間は12〜14カ月ほどとされています。
審判


調停が不成立になると、申し立て直さなくても審判に移ります。相手が呼び出しに応じないまま欠席が続いても、裁判官が資料をもとに分け方を決めます。
ただ、ここまで来ると兄弟の関係はまず元に戻りません。だから私は、その手前の第三者の段階を先に試してほしいと思っています。
相手が無視する理由を一度だけ考える


相手を許す必要はありません。ただ、理由が読めると打つ手が変わります。
中身に納得していない


いちばん多いのがこれだと思います。出された分け方に納得できないけれど、面と向かって言い返す言葉がない。
うちの場合、弟が止まったのは私が出した条件のせいでした。介護3年ぶんとして私に200万円を上乗せしてほしいと紙に書き、弟は「根拠を見せてくれ」と言って持ち帰ったんです。
介護の不公平感


介護をした側は「これだけやった」と思い、していない側は「そんな話は聞いていない」と思う。どちらも本人の中では本当なんですよね。
私は3年分の不満を口に出さないまま、相続の話に入りました。金額の話の前に、そこが片づいていなかったんだと今は思います。
手続きが怖いだけ


書類の意味が分からない、実印を押すのが怖い。返事を後回しにしているうちに、何カ月も経つこともあります。
この場合、責める文面を送るとよけい固まります。「専門家に整理してもらったので、確認して押すだけにしてある」と伝えると動くことがあります。
詐欺だと思われている


疎遠な親族や、ほとんど会ったことのない相続人だと、突然の相続の連絡を詐欺と疑って放置していることもあります。
自分の名前、亡くなった人との関係、戸籍で相続人と分かったことを最初に書き、戸籍の写しを添えると信じてもらいやすくなります。
弟と1年止まった私がしたこと


電話が切れた夜


一回目の話し合いは、四十九日の翌月、実家の居間でした。私が紙に書いた4つの条件のうち、実家を売ること、売却代金から費用を先に引くこと、残りを折半することには、弟も同意しました。
残ったのが200万円の上乗せです。翌月の二回目までに、通帳とカードの明細をさかのぼりました。出てきたのは切符とホームセンターの数件で、数十万円ぶんだけでした。
根拠を出せないまま苦労の話をした私に、弟は「そんな話は聞いていない」と言って席を立ちました。その夜にかけた電話は途中で切れて、そこから1年です。
最初に何を出して何を伏せるべきだったかは、遺産分割の話し合いの切り出し方に失敗のまま残してあります。
持分だけ売ろうとした


正直に書くと、その1年に私がやったのは和解の努力ではありませんでした。自分の持分だけ売れないかと、共有持分の買取業者に電話で相談しています。
関係を直すより、関係を切るほうを先に調べたわけです。結局は和解して、実家は普通に売りました。
持分の売却がどんなものかはワケガイに相談したときの話に書きました。本当に話が通じない相手と共有になったときの、最後の出口ではあります。
名義は母のまま1年


揉めている間、実家の名義は母のままでした。
固定資産税、電気と水道の基本料金、火災保険、帰省の交通費。私が払った維持費は1年で約28万円で、弟には一度も請求していません。
分割がまとまらなくても出せる「相続人申告登記」という制度を、当時の私は知りませんでした。人に勧められた立場ではないので、次の章の期限はぜひ先に見ておいてください。
動いたのは親戚から


話が再開したのは、1年たって親戚が間に入ってくれたからです。ただ、分け方が決まったのはその場ではなく、相続手続きを頼んだ窓口の担当者の応接室でした。
2人だけで向かい合わない部屋があるだけで、声の大きさが変わりました。200万円の上乗せは、そこで私が取り下げています。
私は相続手続きをnocos(ノコス)に代行してもらった体験談のとおり外に出しました。
実費込みで総額およそ26.7万円。安くはないですが、弟とのやり取りを「事務」にできたのが大きかったです。
費用を抑えたいなら、自分でやる道も普通にあります。どこまで自力でいけるかは相続手続きはどこまで自分でできるか、頼み先の値段はnocosと司法書士どちらが安いかで比べています。



私はあの1年、自分から動かずに持分の売り方ばかり調べていました。人を挟むと決めた日から、やっと前に進んだんです。
待っている間も進む4つの期限


相手の返事を待っている間も、期限は止まってくれません。無視されている側にも同じようにかかります。
| 期限 | いつまで |
|---|---|
| 相続放棄 | 相続を知った時から3カ月 |
| 相続税の申告 | 亡くなった翌日から10カ月 |
| 相続登記 | 取得を知った日から3年 |
| 寄与分・特別受益 | 相続開始から10年 |
相続放棄は3カ月


借金のほうが多そうなら、相続放棄という選択肢があります。期限は、自分が相続人になったことを知った時から3カ月です。
財産の中身が分からないまま期限が近いなら、家庭裁判所に期間の伸長を申し立てる手もあります。手順は相続放棄のやり方と期限にまとめました。
相続税は10カ月


相続税の申告と納付は、亡くなった日の翌日から10カ月以内です。分割が終わっていなくても延びません。
決まらないときは、法定相続分で分けたものとしていったん申告し、分け方が決まってから修正します。配偶者の税額軽減などの特例は、未分割のまま使えないものもあるので、税理士に早めに確認してください。
ちなみにうちは、遺産が基礎控除の4,200万円に届かず、申告は要りませんでした。自分の家がどうかは相続税はいくらからかかるのかで目安を出せます。
相続登記は3年


2024年4月から、不動産の相続登記が義務になりました。相続で取得したことを知った日から3年以内で、正当な理由なく放っておくと10万円以下の過料の対象です。
分割が決まらないうちは、相続人申告登記で義務をひとまず果たせます。詳しくは相続登記の義務化に書きました。
10年で主張が使えない


相続開始から10年を過ぎて分割すると、介護などの貢献を考慮する寄与分や、生前にもらった分を調整する特別受益の主張が、原則できなくなります(2023年4月施行)。
介護をがんばった側ほど、待つほど不利になる決まりです。相手を待つより、こちらから段階を上げていく理由がここにあります。
相手の居場所が分からないとき


無視ではなく、そもそも連絡先が分からないこともあります。相続人なら、戸籍の附票をたどって今の住所を調べられます。
それでも所在が分からなければ、家庭裁判所に不在者財産管理人の選任を申し立て、その人と分割を進める方法があります。生死が7年以上分からないなら、失踪宣告という手続きもあります。
居場所を追う手順は戸籍の附票から居場所を追う手順にまとめました。
弁護士に頼むのはどんなときか


- 会話が完全に切れている
- 財産を隠されている疑い
- 相手に弁護士がついた
- 期限が迫っている
どれかに当てはまるなら、弁護士に入ってもらったほうが早いです。ただ代理人がついた瞬間に相手も身構えるので、関係を残したいなら、いきなりここから入らないほうがいいと思います。
相続に強い弁護士の探し方はベンナビ相続を使ったときの話に書きました。相談先を横並びで見たい人は相続の相談ができるサービスもどうぞ。
まだ相手から何も言ってこない段階の人は、遺産相続で何も言ってこないときの動き方のほうが近いはずです。兄弟の相続がこじれる理由をもう少し広く知りたい人はきょうだいの相続トラブルも読んでみてください。
連絡を無視されたときのよくある質問


- Q無視され続けたら遺産分割は永久に進みませんか?
- A
進みます。家庭裁判所の遺産分割調停を申し立て、まとまらなければ審判に移り、相手が出てこなくても裁判官が分け方を決めます。
- Q無視している相続人を外して協議してもいいですか?
- A
できません。相続人が1人でも欠けた遺産分割協議は無効で、その協議書では預金の解約も登記もできません。
- Q内容証明はいくらで出せますか?
- A
定形25gまで・1枚なら、郵便料金110円に一般書留480円、内容証明480円、配達証明350円で約1,420円です。弁護士に文面から頼むと別に費用がかかります。
- Q調停の費用はいくらかかりますか?
- A
申し立てにかかるのは、亡くなった方1人につき収入印紙1,200円と連絡用の郵便切手です。戸籍などを集める実費と、弁護士に頼むならその費用が別にかかります。
- Q調停はどこの裁判所に申し立てますか?
- A
相手方のうち1人の住所地の家庭裁判所か、当事者が合意で決めた家庭裁判所です。自分の家の近くとは限らないので、遠方の兄弟が相手だと移動の負担が出ます。
- Q相手が調停の呼び出しも無視したらどうなりますか?
- A
欠席が続けば調停は不成立となり、審判に移ります。審判では裁判官が資料をもとに分け方を決めるので、出てこなかった側が得をすることは基本ありません。
- Q分割が終わらないと預金は一円も下ろせませんか?
- A
払戻し制度があります。口座残高×3分の1×自分の法定相続分まで、1つの金融機関につき150万円を上限に、ほかの相続人の同意なしで引き出せます。
- Q相手の住所が分からないときはどうすれば?
- A
相続人なら戸籍の附票で今の住所を調べられます。それでも所在が分からなければ、家庭裁判所に不在者財産管理人の選任を申し立てて分割を進めます。
- Q関係を壊さずに進める方法はありますか?
- A
いきなり内容証明や弁護士に行かず、普通の手紙、次に親戚や手続きの窓口など第三者を挟む順で試してください。私の場合も、親戚が間に入ってから話が動きました。
まとめ:無視されても遺産分割は進む


連絡を無視されても、遺産分割は進められます。手紙、第三者、調停、審判の順に段階を上げれば、相手が出てこなくても結論は出ます。
待っている間も、放棄3カ月・相続税10カ月・登記3年・寄与分10年の期限は動き続けます。相手の返事を待つ理由にはなりません。
私は1年、自分からは動かず、名義も母のままにしていました。あの1年で残ったのは、請求しなかった28万円の維持費だけです。



1人で抱えなくて大丈夫です。誰に何を頼むか、まずそれだけ紙に書いてみてくださいね。
手続きを外に出したときの費用と流れはnocosに頼んだ体験談に、相談先の比較は相続の相談ができるサービスに書いています。見送ったあとの手続きの全体像は身内が亡くなったらすることリストもどうぞ。











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